自己資本比率規制(バーゼル規制)

自己資本比率規制の見直し(バーゼル1からバーゼル2)

1988年(昭和63年)に自己資本比率規制(バーゼル1)が導入されてから17年程度が経過し、この間金融機関をめぐる環境や金融市場などが大きく変化し、従来の銀行業自体の内容に加え、リスク管理のノウハウなども大きく変化した。このような中、最初に行われた自己資本比率規制(バーゼル1)の大きな変更は、第2次規制(バーゼル2)と言われ、1993年(平成5年)に規制案が公表された。その概要は、市場リスクの総量と同額以上の自己資本の保有(邦銀は97年3月末まで)、リスクの測定にはバリュー・アット・リスク方式を採用するが、具体的な方法は各銀行の内部モデルの使用を認め各行の事情に合ったものとする、短期劣後債を自己資本と認める等であった。この際も我が国金融機関は、従来のリスク管理システムの大幅な見直しを行うこととなった。


基本的に第2次規制(バーゼル2)は、1988年(昭和63年)に導入された規制が「信用リスク」のみを制限したものであったため、その結果、取引のウェイトが引き上げられた国債の売買や、デリバティブ取引などの「市場リスク」が十分考慮されておらず、このため導入されたものである。このBIS第2次規制(バーゼル2)は、1996年(平成8年)より、ディーリング業務(自己勘定の売買)のリスク等を勘案する「市場リスク規制」として導入された。


2006年末(平成18年末:わが国では平成18年度末)に導入された新規制(バーゼル2)は、2002年(平成14年)10月に公表され、変更点はいずれも自己資本比率算出式の分母に関連するものであり、分子の自己資本の定義等の変更は行われていない。見直しは3つの柱から構成されており、第1の柱は、自己資本比率算出式の分母の「リスク計測の精緻化」を行うこと、第2の柱は、金融機関自身による「自己資本戦略の策定」であり、監督当局によるレビューが行われること、第3の柱は、「開示の充実」を通じた市場規制の実効性強化であった。この中で最も金融機関に影響を与えるとみられていたのが第1の柱であった。


第1の柱に掲げられた「リスク計測の精緻化」では、現行規制が、国際的に活動している金融機関が持つべき資本の水準を計測するための方法が、保有するそれぞれの資産とオフ・バランス(簿外)資産に一定のリスク・ウェイトを乗じてリスク・アセットの額を計算し、その総額を出すというものであるが、1990年代には信用リスク管理手法の高度化等が進み、各国でこれらの技術を採用した金融機関経営が行われるようになり、現行規制とこの最新のリスク管理経営・実務とが乖離してきていた。このような事態を改善すべくバーゼル銀行監督委員会は、信用リスクについて金融機関内のシステムを用いて計測することを初めて認め、債権のリスクをよりきめ細かく自己資本比率に反映させる規制案を策定した。この銀行の信用リスク管理を使った計測方法は「内部格付手法」と呼ばれており、借り手ごとに銀行内審査により行内格付が付与され、格付に応じた債務不履行確率(デフォルト率)に基づいて、信用リスク量が計測されることとなった。


1次規制(バーゼル1)では、一般事業会社向け融資の場合、リスクは一律とみなし、どんな債権でも融資額の8%相当の自己資本を求めているが、2次規制(バーゼル2)では、デフォルト率によってこれを割り増したり、逆に割り引いたりする仕組みとなった。このため優良な企業などへの貸出債権は、1次規制(バーゼル1)よりも所要自己資本が少なく済むこととなったが、信用力が低い、或いは不良債権となっている貸出債権については、1次規制(バーゼル1)のルール以上に所要自己資本が必要となった。


当時このようなリスク管理手法を採用していない金融機関にとって、「内部格付手法」を採用するには、データ、システムなどの整備に相当なコストがかかることも予想され、経営戦略によっては、他の課題に注力した方が合理的な場合もあり得るため、2次規制(バーゼル2)では1次規制(バーゼル1)の一部を変更した「標準的手法」も準備された。具体的には、一定の厳格な要件を満たす外部の格付会社などが付している格付を利用して、リスク・ウェイトを今まで以上に細分化し、リスクを正確に反映させることとなった。


この「標準的手法」は、地方銀行等大半の金融機関が利用した。またこの手法では、小口分散効果に配慮した取扱いが盛り込まれ、与信額1億円未満の個人・中小企業向け貸出について、1次規制(バーゼル1)では100%となっているリスク・ウェイトから25%引き下げ、75%とし、また、住宅ローンについては現行50%から3割削減し、35%とされることとなった。また、主要行等が選択すると見込まれる「内部格付手法」においても、個人・中小企業向け貸出については、同様の与信特性であっても大企業向け貸出と比べ所要自己資本が軽減されるような算式となった。


金融機関の保有株式についても、「標準的手法」では、リスク・ウェイトが現行規制同様、100%とされた。また、「内部格付手法」においては、信用リスクに重点をおいた方式と価格変動リスクを中心に把握する方式からの選択が認められた。


政府向け与信については、国債の信用リスク評価に当たって、格付に応じたリスク・ウェイトを適用することとされたが、自国通貨建て国債については、各国の裁量で0%のリスク・ウェイトを適用できるとされ日本国債、地方公共団体の地方債は引き続き0%となった。


次に、新たに導入されたオペレーショナル・リスクは、事務事故や不正行為、訴訟などによって損失が発生するリスクのことをいい、1次規制(バーゼル1)までは自己資本8%の中で、このリスクがカバーされてきたが、ITの進展により予想外の損失が発生するリスクが増大したため、別途の積立てを2次規制(バーゼル2)に盛り込むこととされたものである。


リスク算定においては、業務粗利益を基準に計測する方法と、過去の損失実績などを元に計測する手法とのうちから、金融機関が適する手法を選択できるものとなった。